日本農業の将来像を描いた小説:真山仁著「黙示」

この小説は、日本の農業の今日的課題ならびに将来の在り方について、ドキュメンタリータッチで書かれたものです。まず、農薬使用の是非について、ここでは稲の害虫であるカメムシ等をピンポイント的に駆除できるとされるネオニコチノイド系農薬を取り上げ、ミツバチの失踪や大量死問題、また人のアレルギー(化学物質過敏症)等にからめて展開を図っています。安定した農作物を得るには、農薬使用はやむを得ないが、その場合、このことで影響を受ける養蜂業者や関係者などとの連携のもと、農薬被害を最小限に食い止めると言った工夫により、一方的な農薬拒否ではなく共生の道を探る形で着地されています。なお、茶畑では、農薬使用が不可欠であることについて、さらっと触れています。あえて茶畑が抱える厳しさを深堀しないよう配慮したように思いました。

日本農業の産業化の動きについて、太平洋経済連携協定(TPP:Trans-Pacific Partnership)を意識したものと思いますが、経済産業省が進める「農業商工連携」、また農林水産省が進める「高付加価値産業」(第6次産業化)というテーマを取り上げています。小説では淡路島の“ジャパン・フード・バレー”プロジェクトが、経産省ならびに農水省が目指すこれからの農業の形と読み取りました。農業の産業化の一つとして、植物工場を取り上げていますが、同工場では季節や気象変化に影響を受けず安定して、なおかつ安心な作物栽培ができる。加えて、近い将来には必然的に採用せざるを得ない遺伝子組み換え作物(GMO)栽培実験などに触れた個所は、間違いなく日本農業の将来像であろうと思いました。露地物のトウモロコシの味とGMOのそれとの比較で、GMOは飼料目的などの選択的な栽培に受け入れられることを示唆したものと思います。実際にGMOで作られた農産物の加工食品は、すでに日本にも輸入されています。

日本における植物工場の歴史は、すでに20数年に亘っていますが、産業として採算性の目途が立ったのは、比較的最近であり、本格的な取り組みはこれからだと、私は思っています。経産省が進める植物工場がグローバルな視点なら、一方の農水省が進める第6次産業化は、多分に、ご当地グルメの創造といった極め国内的な施策に映りました。私見ですが、これからの植物工場は、完全制御型植物工場が主流となり、この場合、作物の栽培環境条件である「光」「温度」「湿度」「風」そして「肥料」(湛液)等々は、全てITシステムで管理する仕組みとなっています。見方を変えれば、この植物工場による農作物生産は、エネルギー多消費型産業といえます。これは、すでに運用されている植物工場における原価のうち、30~50%が電気代で占められていることからも理解できます。したがって、コスト削減の視点からの省エネルギー化の動きはあるものの、地球温暖化対策の側面、すなわち温室効果ガス(GHG)の排出抑制の観点からの取り組みは未だなようです。