中国の環境問題と老朋友の来日

2月11日、中国の正月に合わせ、1月28日から来日していた老朋友が帰国の途についた。老朋友は5年ぶりの来日で、かつて培ったそれぞれの老朋友との友情を確かめることと、今、中国が抱えている環境問題を含むいくつかの重要課題の答え求めに来日した。老朋友は現在、四川省で2つ大きなプロジェクトを抱えている。その一つが成都市の北北東に位置している水瓶の一つである広元市青川区にある湖の水質改善で、同湖は生活雑廃水等の大量流入により富栄養化が進行し、青粉が大量発生するという深刻な事態となっている。湖は飲料水はもとより、淡水魚の養殖場として、また農業用水としても利用される多目的水源で、水質悪化により各方面に大打撃を与えているようだ。二つ目は、都市と農村の格差是正プロジェクトとして、成都市の南西部に位置する雅安市民山区の農村改革プロジェクトである。私は、この村には2013年12月に訪問している。村の人口は約1万人、茶葉の生産が盛んな村で、起伏に富み山林や竹林そして河川(生活雑排水が若干流れ込んでいるせいか、水は若干濁っていたものの、それまでに見た中国の他の河川に比較すれば良好で、適切な水処理が行われれば清流を蘇るせることは可能だと感じた)など、景観に優れている場所であることを確認している。都市部の近代化から取り残された村ではあるが、村人は素朴で屈託のない様子であることも感じ取れば場所である。老朋友はこの村の自然に残されている文化遺産である道教や仏教の古寺院、また1978年(鄧小平指導体制のもと改革開放がスタートした年)に建設された村民の集会場など多彩な文化遺産(これら施設の多くは傷みが激しい状態)に注目し、これらを近代化で蘇らせ、この村落の自然を活かし、都会人の憩いの場所にしたいとする壮大なプロジェクトが計画されている。すでに四川省政府や中国人の投資家も、このプロジェクトに強い関心を示している。老朋友は日本の優れたノウハウをこの農村改革に取り入れたい意向で、具体的なテーマとしては日本式の老人ホームの建設や日本食レストランなどがその候補として挙げられている。このプロジェクトを成功に導く一つのアイディアとして、老朋友は雅安市民山区と栃木県日光市との間に姉妹都市を実現したいと目論んでいるようである。加えて、すでに成都市で日本食レストランを展開している日本のオーナーとも話し合いを持ったようである。本プロジェクトが成功するかは未知数ではあるが、こうしたビッグプロジェクトを実現したいとする老朋友(年齢70歳の女性)の意気込みには脱帽である。私の出来る範囲で、惜しみない応援したいと考えている。老朋友は現在、四川省農業国際交流協会、四川省新技術国際交流促進協会の両会長を務めており、四川省の農村改革のみならず世界の先端科学技術をいち早く導入すべく精力的に活動も行っている。日本と中国は尖閣諸島の問題で、政治的にはぎくしゃくした関係にあるが、民間レベルでは積極的に日本との交流を図り、バランスとれた経済社会発展を実現したいと目論んでいる。70歳を超えた女性が、次なる夢の実現に掛けるパワーに、私は気圧されている。

以上2つのプロジェクトは、いずれも水問題の解決が大きな鍵を握っている。そうした視点から最近注目されてきた“マイクロ・ナノバブル技術”を使った高度な水処理技術の移転を期待している。本来、ナノバブル技術は医療分野(歯科、外科、皮膚科)で応用され、その有効性が明らかにされている。加えて農業の生産性向上にも寄与する新技術として、また様々な廃水処理(衛生工学)の分野においても応用され一定の成果を上げつつある。マイクロ・ナノバブル技術は古くて新しい技術と言え、水中に作られるミクロンサイズの泡が計測できるようになってから、技術応用が多方面にわたり加速されつつあると素人ながら見ている。特にナノバブルの技術については、歯科、外科医療、そして難治療性の皮膚病への応用と医療分野も注目し、これらの分野の先生方が中心となって、2012年に日本マイクロ・ナノバブル学会が設立されている。一方、汚水処理分野の応用は、マイクロバブルの視点ではすでに10年くらいの実績がある。しかしマイクロバブルの中にさらに粒径の小さなナノバブルが存在することは知られていたが、その計測技術が確立するに至って、より密度の高いナノバブルの発生技術の開発が進められ、この技術を使った汚水処理レベルの有効性が、植物工場における水耕栽培の湛液の浄化や豚舎からの廃水処理のレベルが、従来とは比較にならない浄化度を高めているなどの事例が明らかにされている。老朋友はこの日本のマイクロ・ナノバブル技術に熱い視線を送っている。中国国内でもすでに200件に及ぶ特許申請がなされていることを確認(老朋友の説明)しているが、日本のそれとは異なるようで、日本からの技術導入に拘っている。

それにしても、中国における水、大気汚染問題、さらに農用地の化学物質汚染も深刻で、これらトータルな環境問題の改善なくして、前述の壮大なプロジェクトの成功は考えられない。すさまじい経済発展の後は、生活の安全・安心を確保したい。当然の流れとして考えられるものの、厳しい環境汚染問題がこれに立ちはだかっているというのが実際である。政治的な面での日中間の課題はあるものの、友情と商売は別である。私は、何とか老朋友の力になりたい。そう思っている。私と老朋友との出会いは、今から25年前の1991年であった。以後、今日まで商売抜き(ボランタリー)でのお付き合いをしてきたが、今後はビジネスライクに対応し、役立ちたいと考えている。

老朋友は1980年代に山梨大学に国費留学生として来日し、主に水処理に関する理論と技術を習得し同大学を卒業している。留学の期間に、山梨大学の関係者はもとより、県下の関係者(官民いずれも)との深い交流、そして慶応義塾大学(医学と工学分野)、北海道大学などの教授や学生たちとの人脈を形成している。留学後、成都市に戻ると所属していた市の環境化学研究所副所長の職を辞し、独立、現在は四川省では水処理施設の設計・施工会社と、2010年に中国環境法の法改正に伴い、民間会社でも県(4級)や市(3級)が抱える監測站の要件(人や設備ならびに技術等)を抱えていることが証明できれば、民間でも監測站業務を実施する資格を得ることが可能となった。老朋友の会社はこの資格を取得し、市級の監測站業務=測定・分析業務が行える四川省成都市で民間第1号の測定・分析会社になったようだ。中国もようやく環境測定・分析業務の民間への開放が図られたということである。但し、海外の民間企業には門戸を開けていない。

いずれにしても現在の中国は、かつて日本が経験した激甚公害に見舞われ、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染等極めて深刻な状況に置かれている。これまでの中国政府の政策は、経済至上主義を推し進め、2010年には国内総生産(GDP)で日本を抜き、世界第2位の経済大国となった。2012年12月、胡錦濤体制から習近平体制に代わって1年が経過したが、経済至上主義は変わらず、PM2.5や河川・湖沼の汚染に見られるように、極めて深刻な環境問題は改善の兆を見せていない。こうした事態を受けて、中国国民の政府に対する不満の圧力は極限に達しつつあると見られる。中国はこうした状況を急ぎ改善しないと、地方政府はおろか中央政府の持続性も危うくなる恐れがある。何としてもこうした事態を避けねばならない。中国の公害問題解決には、日本が経験し克服した事実からして、極めて効果的な支援ができるものと考える。

ここで二人の日本の世界的なオピニオンリーダーの中国観について紹介したい。先ず、環境学の専門家である石弘之氏は、著書「環境と文明の世界史」の中で、中国は2020年頃までにカタストロフィーが起こるであろうと予測している。中国はすでにエネルギーと食糧の大量輸入国に変質した。特に、エネルギーの使い方に浪費が多く、その結果環境への負荷が尋常ならざる状況にある。水の汚染に始まり食糧汚染問題、そして深刻な大気汚染などによって、多くの国民は公害による健康被害や農産物被害などの保障を、中央ならびに地方政府に向け強く訴えている。頻発しているあちこちの暴動は、近い将来に政府転覆のティッピングポイントを迎えると指摘している。

また、世界的なビジネスコンサルタントの大前研一氏は、タイム誌が掲載した温家宝元首相の不正蓄財(20数億ドルに及ぶ)を例に、中国の政府高官の腐敗状況に対し、腐敗しきった中国政府の状況を鑑みると、国家としての持続性が難しいと説明している。腐敗の状況は、胡錦濤政権を引き継いだ習近平体制になっても根本的には何ら変わっておらず、‎トカゲの尻尾切でお茶を濁している政府の実態を国民は知っており、いずれ体制は崩壊すると説明している。一方で中国人(世界に分布している華僑を指していると思われる)による世界のビジネスのポジションはより影響力を増し、日本ならびに日本人にはそうした点を考慮した対応が求められるとも述べている。

中国人の中には当然良い人もいれば悪い人もいる。おこがましいが、私に少しでも力があれば、良い人に対しては惜しまずお手伝いしたい。公害問題で困っている中国人に向かって、何か役立ちたい。かくいう私もかつての川崎公害による喘息患者の一人である。実際に私自中国の現状を目の当たりにして来た者として、一日も早く何とか出来ないものか、そういう苛立ちを強く抱いている。貿易摩擦で日本を脅かし、日本に公害対策を急がせたニクソン大統領(当時)が、今は中国に向けてそう促す国家のリーダーが必要のように私は思う。安倍晋三首相では荷が重すぎるかどうかわからないが、言うとなれば日本の首長からのメッセージを期待したいものである。中国国民を蔑にし、自らの蓄財に奔走する中国の高官、本当に許せない・・・と叫んでも、むなしが。ただ、70歳を超えた超人的に活躍している老朋友には、心から協力を惜しまず支援したいと考えている。