地球温暖化を食糧生産(主に家畜の飼養)の観点から見た景色

地球温暖化を食糧生産(主に家畜の飼養)の観点から見た景色:地球上に飼養されている家畜の数は700億頭で、このうち2/3は工場式畜産によると紹介されています[1]。つまり、470億頭はストレスを抱える環境で飼養されています。動物もそうですが、過酷な環境で育成されたものを口にすることは、人にとっても決して受け入れるべき食べ物ではないということが、同書籍で紹介されています。「ファーマゲドン」の副題には、「安い肉の本当のコスト」は、例えば「ハンバーガーの真のコストは1万円」と書籍の帯には記されています。

人間の旺盛な食欲が、過剰の食物生産システムを造りだし、大気汚染、土壌汚染、水質汚濁、はたまた温暖化を加速する要因となっていることは意外と知られていません。家畜700億頭は、人間の人口が2015年現在72、3億人と考えると、その約10倍に匹敵します。これら家畜の飼料は、多くが大豆やトウモロコシで、これらは人間の食糧源であることは言うまでもありません。人間一人が生きていく食物量は、穀物で換算して180㎏/年と言われています[2]。ちなみに2012年の世界の穀物生産量は24億tで、これを人口71億人(2012年)で除すと、340㎏/人となります。つまり、今日では全世界の人々に十分に行き渡るほどの食糧生産を実現していることになります。ところが、実際は8億数千万人の人々が飢えているのが現状です。

一方、先進国では、現在の家畜の飼養方法に大きな疑問を投げかけています。家畜における工業式畜産とは密集形態による生産方式を言います。つまり家畜が身動きのできない狭い空間に押し込められ、飼料を口から流し込まれます。家畜の密集リスク回避をするために、多量の抗生物質が使用されます。また、ペニシリンなど予防接種が当たり前に行われ、言い換えれば薬漬けの状態で飼養されていることになります。例えば一般的に、鶏は成鶏になるまでには約4、5月(120日〜150日)掛かりますが、工場式畜産では、およそ7週間(50日)で肉として出荷に耐える目標体重に達しているのが現状です。

ここで言いたいことは、私たちは愛玩動物である犬、猫に関する思いやり(Compassion:コンパッション)については関心が高いのですが、日ごろ口にしている牛、豚、鶏等の家畜に対する「思いやり」に欠けていると指摘している団体があります。それが“コンパッション・イン・ワールド・ファーミング(Compassion in world faming:世界の家畜に思いやりを)です。ストレスを掛けられ飼養された家畜の肉などの食材と、人間の健康状態とに大きな相関があると指摘しています。密集状態の環境で抗生物質や様々な薬物が投入された家畜の肉は不健康で、この肉を食する人間も不健康になるというものです。先進国では有り余る不健康な食材を口にする人々の多くは、身体的、精神的不都合を抱えている可能性が高いと説明されています。

私が50年前に公害問題を手掛けたころに、ベストセラーになった書籍に、レイチェル・カーソン著「沈黙の春」{1962年、日本語訳は1964年に『生と死の妙薬―自然均衡の破壊者〈科学薬品〉』}がありました。今日、日本の農業における農薬の使用量は世界一と言われています。幸いにも、農薬の使用タイミングや量の規制、管理が行き届き、農作物のへの残留農薬の量は一頃よりは大幅に削減されたと言われています。しかし、厳密なセンサスが行われその実態を調査し、国民に報告される形とはなっていないのが実態です。今のところ、農薬による土壌汚染、河川や地下水の水質汚濁などの厳しい汚染が明らかとなったとされる報告ありません。

家畜の生産についても、欧米のような密集飼養状況と比較すると、それほどまで厳しい状況にはないのかも知れませんが、生産性を上げコスト競争力を考慮すると、欧米に類した密集型家畜生産システムの方向を選択する動きは見られます。日本における家畜による環境汚染問題は、悪臭、水質汚染(地下水を含む)、病害虫の発生など、地域によっては深刻な状況にあることは間違いありません。

冒頭で紹介した通り、全世界で700億頭の家畜が飼養され、その2/3が健全な飼養状況にないことの指摘は、家畜そのものの不健康さに加えて、環境汚染問題も極めて深刻であることは言うまでもありません。いわゆる「畜産公害」に加えて、排せつ物による温暖化物質の大気への放出も、見過ごせないレベルであることは容易に理解できます。炭酸ガス(CO2)はもとより、メタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)の排出量は、化石燃料の燃焼によるCO2を凌駕しないまでも、相当に大量である点は見過ごせないと考えます。その意味で、温室効果ガスの排出抑制の観点からの、家畜飼養のあり方を考える時代が到来したとも言えます。ちなみに、日本における家畜からの温室効果ガス排出量は1,210万t-CO2(2010年)で、総量13億 5700 万トン CO2の1%に相当すると見積もられています[3]。家畜頭数は、全部で3億2,160万頭に達しますが、このうち鶏が95.8%を占めており、豚は3%の954万頭、牛(乳牛、肉牛)は1.2%の396万頭となっています。

フィリップ・リンベリー、イザベル・オークショット著「ファーマゲドン」に記載されている内容には、人間が食糧とする家畜のみならず、野菜なども含め、密集形態による栽培・育成を可能な限り避け、動植物に対して“思いやりの心”を持った生産ならびに栽培手法を進めなければ、人間の健康に跳ね返っていくとされています。「畜産の集約化は、食べ物の栄養価を破壊しているも同然である」(p.213)、「肥満動物の肉を食べれば、肥満になります」(p.214)など。つまり工業型畜産では、家畜を太らせるように品種改良を行い、ただ檻の中でひたすら餌を食べ続ける。当然、脂肪分が多くなり、健全とは言えない肉として世に出回ることになります。

一方、700億頭もの家畜から排せつされる糞尿は、メタンや亜酸化窒素といった温暖化物質を大気中に放出します。こうして見ると、農業分野における健康な食糧生産に加え、温暖化対策をも考慮した農産物の生産も、重要であることが理解できると思います。食糧生産に思いやり(Compassion)を持った動きは、決して最近に起こった考えではなく、1960年代にはこうした活動が開始されています。環境問題は、巡り巡って私たちに跳ね返ってくるものです。こうした取り組みの必要性について、改めて強く実感した次第です。

[1] フィリップ・リンベリー、イザベル・オークショット著「ファーマゲドン」p19より

[2] http://www.chikyumura.org/environmental/earth_problem/food_crisis.html

[3]http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/16/pdf/doc1.pdf